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TXP Medical株式会社

年間約9,300時間の削減効果、救急搬送のDXが示す医療機関連携と政策立案への可能性

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近年、浜松市における救急車の出動件数は増加傾向にあり、2022年には年間4万件を突破しました。そんななか、医療機関とのデータ連携により、搬送先決定プロセスを迅速化することは喫緊の課題となっています。

 

TXP Medical株式会社(別ウィンドウが開きます)(読み方:ティー・エックス・ピー・メディカル)は、「救急医療DXによる救急搬送最適化プロジェクト」を実施。救急隊員の帰署後の事務作業が年間で約9,300時間(※)削減できる見込みとなり、今求められる救急搬送のあり方も見出しました。

 

医療DX事業部部長で本事業の責任者を務めた大西裕(以下、大西氏)氏、本事業のプロジェクトマネジメントを担ったマネージャーの内藤慶(以下、内藤氏)氏、そして、調整・運用を担当した天野圭悟(以下、天野氏)氏に詳しく聞きました。

 

※本実証実験の結果に基づく試算

救急隊員と医療機関をデジタルでつなぎ、傷病者の搬送作業をスムーズに

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(大西氏)

 

――まず、貴社の事業内容について教えてください。

 

大西氏:弊社は、東大卒の現役の救急専門医が立ち上げたスタートアップで、医療・医学の専門的な知見から救急・医療現場の課題を解消することをミッションとしています。

 

救急搬送の現場では、現場に到着した救急隊員が紙とペンで傷病者の状態を記録し、電話で搬送先の受け入れ可否を確認することが多く行われています。そんななか私たちは、次世代型救急医療システム「NSER mobile(別ウィンドウが開きます)(読み方:エヌエスイーアール・モバイル)」を開発・提供し、救急搬送業務のDXに取り組んでいます。

 

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 出典:NSER mobile―救急搬送の現場を変える_TXP Medical株式会社

(別ウィンドウが開きます)

 

大西氏:NSER mobileを搭載したタブレットで写真を撮影したり、音声を入力いただくと、OAシステム登録に必要な情報が自動で記録されます。医療機関との情報連携をスムーズにするのはもちろん、帰署後の報告書作成も自動化。迅速かつ適切な搬送を実現することを目指しています。

 

例えば、運転免許証や保険証を撮影すれば、OCR機能で人定情報(氏名、生年月日、現住所、職業など要救護者に関する情報)が自動入力されます。おくすり手帳の情報も読み取れるので、服用中の薬名や特徴を医療機関に伝達できます。

 

――実証実験を含めると、NSER mobileはすでに44の自治体に導入されているとのこと。今回、浜松市での実証で目指したのはどのようなことですか?

 

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(内藤氏)

 

内藤氏:大きく分けて2つあります。1つ目は、現場活動(病院への引き継ぎまで)だけでなく、帰署後の事務作業まで含めた一連の業務フローにおいて、DXによる効果検証を行うことです。これまでは、帰署後の作業は実証実験に含めたことがありませんでした。

 

そしてもう1つが、救急隊員の言動や傷病者の症例などあらかじめ定めた、シナリオに基づくデモを行うことでした。従前の実証実験では実際の救急搬送の現場であったために、変動要素が大きいことが課題でした。

 

とくに政令指定都市であり、人口規模の大きな浜松市において定量的な検証結果を得ることに意義を感じ、本事業に応募しました。

事後作業を含めたフロー全体をスコープに、3段階の検証で真の課題に迫る

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(天野氏)

 

――1年間の実証実験は、どのようなロードマップで進められたのでしょうか。

 

天野氏:まず、2024年1月以降、次のような目的別に計3回のデモを行うことを予定しました。

 

  • 1回目:救急活動の現状把握と改善点の抽出
  • 2回目:1回目の改善点を踏まえて環境を改良
  • 3回目:2回目までに得られた結果にあわせKPIを変更

 

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1回目と2回目のデモは、搬送先決定までの時間をKPIに設定しました。そのうえで1回目の改善点を踏まえた2回目のデモを実施します。そして3回目のデモでは、計2回のデモで得られた新たな課題や取り組むべき事項のうち、優先度の高い項目を検証することにしました。

 

――1回目のデモは2024年1月に予定していたそうですね。

 

天野氏:はい。消防局や医療機関の皆さんと毎月1回は打ち合わせを行い、シナリオや運用方法などを検討。2023年の12月にはリハーサルも実施したのですが、年明けに起きた能登半島地震の影響でデモの実施が白紙になってしまいました。

 

それでも、準備段階から消防局の皆さまが熱量高く取り組んでくださったおかげで、1回目の実施日を3月29日に再調整できました。とくに主担当を務めた仲山智士主幹には、課内の理解促進や調整に奔走いただきました。

 

――それぞれのデモでは、どのような結果が得られたでしょうか?

 

内藤氏:1回目のデモはシナリオやセリフを固定したため、リアリティに欠けるとのご意見をいただきました。そこで、2回目のデモではシナリオの要点のみを残し、熟練の救急隊員の方にセリフや行動を委ねることにしました。

 

ただし、熟練の救急隊員の方ほど搬送作業が迅速で、逆にシステムを介することで搬送先決定までの時間がかかる結果となりました。

 

その一方で、「システムを使うことで情報連携の質が向上し、受入れ側の体制強化につながる」という有益な視点が得られました。これは、医療機関の先生方からいただいた意見で、EBPM(データやエビデンスに基づく医療政策の立案)の構築につながるかもしれない、重要な示唆です。

 

そこで、3回目のデモでは医療機関との情報連携の質にKPIを置くと同時に、救急隊員が帰署後に行う事務作業の効率化検証をシミュレーション形式で実証しました。

 

――斬新な視点ですね、結果はいかがでしたか?

 

天野氏:定性面、定量面ともに具体的な成果が得られました。定性面では、「搬送患者における医療情報連携の質が向上する」と回答した方の割合が92.3パーセントにのぼりました。また定量面では、平均で活動報告書の作成に1事案あたり13分24秒かかっている時間を、4分01秒まで減らすことができました。年間にすると9,296時間の削減効果が見込まれます。救急出動件数は年々増加しているので、削減効果はさらに大きくなるでしょう。

 

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関係者との協力体制を構築しやすく、必要な検証に取り組める

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――今回の結果について、貴社ではどう総括していますか?

 

天野氏:現場課題を包括する上位概念であるEBPMの重要性が認識されたことに価値を感じています。そして、EBPMの実現に必要な3つの柱と具体的な取り組み――搬送先決定時間の短縮、医療連携の質向上、事務作業の効率化が抽出できました。

 

DXは、例えば「搬送先決定までの時間を短縮したい」といった一部の課題だけに寄与するものではなく、業務フロー全体に劇的な変革をもたらすものです。今回、EBPMの構築に向けた全体像を把握することができ、入力作業の効率化、心電図データや動画の送信、事後検証のデータ化といった、今後必要な機能の指針にもつながりました。

 

――今後はどのように進めていきますか?

 

大西氏:さらなるOCRの精度向上や、新しい技術である生成AIを利用した機能によって、NSER mobileはより使いやすくなっています。浜松市でもご活用いただきたいと思いますし、本事業ではとくに事務作業の効率効果が明確になりましたので、得られたデータを活用し、全国展開を進めていきたいと考えています。

 

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(デモは消防局の大ホールで実施し、医療機関の医師も参加したほか、消防局の他の職員も見学。回を重ねるごとに演者の熱量も高まった)

 

――最後に、本事業に参加を検討しているスタートアップの方に向けてメッセージをお願いします。

 

内藤氏:今回、浜松市で実証実験に取り組んでみて、立地、規模、支援体制など、実証実験に必要なものが揃っているフィールドだと感じました。成果発表や広報の機会も多く、たくさんのメリットを得られました。

 

天野氏:浜松市は、課題解決を共通の目標とし、関係各所が積極的に協力してくれるフィールドです。市職員の皆さんもつねに前向きで、「できます!」「こういう方法もありますよ!」と意見をくれました。

 

大西氏:政令指定都市での実績は、スタートアップにとって大きな強みになります。本事業は、エビデンス構築と広報促進を叶えるアクセラレータープログラムとしての機能も備えています。ぜひ応募を検討してみてはいかがでしょうか?

 

 

お問い合わせ

浜松市役所産業部スタートアップ推進課

〒430?8652 浜松市中央区元城町103-2

電話番号:053-457-2825

ファクス番号:053-457-2283

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